第97回アカデミー賞短編ドキュメンタリー映画賞にノミネートされた「小学校~それは小さな社会~」が県内で唯一、シネマテークたかさきで上映されている。ある公立小学校の日常を描いたドキュメンタリー映画だが、ここには、今、世界で注目されている教育が詰まっているという。その教育とは何か? 「映画で拓く日本の教育の未来」で広報を担当する原山浩司さんに聞いた。

特活がアイデンティティ
小学校入学前に家で給食の配膳の練習をする男の子、名前を呼ばれて大きな声で返事を繰り返す女の子。体育館で椅子を並べたり、教室の掃除をしたりして小さな仲間たちを迎える準備を進める6年生。そんな子どもたちの姿から映画は始まる。
メガホンを握ったのはイギリス人の父と日本人の母を持つ山崎エマ監督。日本の公立小学校を卒業後、インターナショナルスクールからアメリカの大学へ進学。就職したニューヨークの会社で評価されたのは、周囲と協力する、時間を守るなど今まで当たり前にやってきたことだった。その「当たり前」はいつから身についたのか? 振り返ると、原点は日本の小学校での日常、「特別活動(特活)」にあったことに気づいたという。
世界で稀な日本独自の教育
特活とは何か? 山崎エマ監督もメンバーに名を連ねる「映画で拓く日本の教育の未来」の広報担当で、群馬県内で小学校長を務めた原山浩司さんは「教科以外のもの全て」と話す。掃除、日直の仕事、係や委員会、児童会や生徒会、修学旅行や運動会。明確な時間は決められていないが、相当な時間数になることは確かだ。
「海外では学校は、授業を受ける場。たとえばアメリカでは学校の掃除をするのは業者で、子どもたちが関わることはありません」と原山さん。一方、日本では学校を「社会の仕組みを学べる場所」とし、特活が学習指導要領に盛り込まれている。これは世界的に珍しいという。
特活があることで、私たちは組織の中で果たす役割、仲間を思いやり互いに協力し合うこと、物事をやり遂げる責任感やそれを果たすことで得られる達成感などを学ぶ。
世界で注目される理由
フィンランドやエジプトでは、給食当番、委員会活動などの特活が取り入れられるようになった。本作品もフィンランドでの上映は1館から20館に拡大されて4カ月のロングランを記録。アメリカではニューヨーク・タイムズ紙に紹介され、韓国では教育チャンネルで放送されて50万人以上が視聴するなど反響を呼んでいる。さらに、第97回アカデミー賞短編ドキュメンタリー映画賞にノミネート。日本人監督による日本を題材とした作品のノミネートは初となる。
なぜ今、特活がここまで注目されているのか? 原山さんは山崎監督の言葉を踏まえてこう話す。「世界がコロナパンデミックを経験し、協力し合わなければ生き残れないという意識が芽生えた。人類が生き残るためのヒントを、日本ならではの特活に見出したのではないか」。そしてこう続ける。「連帯責任や同調圧力など、日本の教育は決してパーフェクトではなく課題が多いのは事実です。しかし、世界に誇れる素晴らしいものであることは間違いありません」。
3月20日まで上映決定
話題性に富んだ本作品は、県内で唯一「シネマテークたかさき」で上映中。当初2週間の予定だった上映期間は、公開前にさらに2週間の延長が決まった。
作品では、先生方の表には出ない努力や葛藤も描かれている。こんなにも深い愛情を持って子どもたちを見つめ、支えてくれていたのかと胸が熱くなる。原山さんは「世界が注目した点や監督が今私たち日本人に伝えたい大切なことを考えながら、小学校時代を思い出しながら、学校関係者、子ども、保護者、今は学校と接点のない人たちなどさまざまな人に見てほしい」と呼び掛ける。日本の小学校に通った経験のある人なら誰でも覚えがある日常は、深い感動に満ちあふれ、日本人らしさをつくる原点であることに気づかされる。

23分にまとめたニューヨーク・タイムズ版が視聴できる
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【上映】 シネマテークたかさき
高崎市あら町202番地
tel.027・325・1744
上映スケジュールは同館サイトで
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映画で拓く日本の教育の未来
広報担当 原山浩司さん
kojiharayama18@gmail.com