ぐんま謎学の旅 続・民話と伝説の舞台(2)「座敷わらし」2024年04月15日号

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宝くじが当たる!? 座敷わらしの宿

その“こども”の姿を見ると、幸運が舞い込むという「座敷わらし」。
民話や伝説だけの話と思いきや、令和の現代でも目撃情報が後を絶たないという温泉旅館を訪ねた。

遠野と猿ヶ京の共通点

【座敷童】 東北地方の旧家に住むと信じられている家神。小児の姿をして顔が赤く、髪を垂れているという。枕返しなどのいたずらもするが、居なくなるとその家が衰えるという。
「広辞苑」より

 座敷わらしといえば、柳田國男の『遠野物語』が有名だ。舞台は岩手県遠野市。民話や伝説の宝庫である。意外と思われるかもしれないが、遠野と猿ヶ京(みなかみ町)には共通点が多い。

 まずは地名。遠野には「猿ケ石川」「新張村」がある。「猿ヶ京」「新治村」(旧地名)に、よく似ている。そして遠野といえば、カッパや座敷わらしなどの伝説が多いことでも知られるが、猿ヶ京にもカッパと座敷わらしの民話が、いくつも語り継がれている。こんな話がある。

 〈昔、旅の夫婦が大きな空き家に、一夜の宿を借りてから、そこに男の子が現れるようになったそうです。奥さんが、その男の子と遊んであげると、その男の子は「奥の座敷の床下を掘ってください」といったそうです。言われたとおり掘ってみると、なんとそこには、大判小判の入った金瓶が埋まっていました。その後、夫婦はその家で暮らすようになり、座敷わらしに似た可愛い男の子をもうけ、末永く幸せに暮らしたそうです。〉
民話『座敷わらしの家』より

コーラをねだる男の子

供えられたおもちゃやお菓子と主人の生津さん

 猿ヶ京温泉「生寿苑」。2代目主人の生津秀樹さんは、民話に登場する旅の夫婦の子孫だという。私は取材等で幾度となく主人には会っているが、最初に宿を訪ねた日、その異様な光景に驚かされた。ラウンジの隅に置かれたテーブルの上に、おもちゃやお菓子が山のように積まれていたのである。

 「お客様が座敷わらしにと、置いて行かれたものです」

 突然、夜中に風車が回り出したり、センサー式のおもちゃが動き出すらしい。では、いつから座敷わらしが現れるようになったのか?

 15年ほど前。一人の宿泊客が夜、廊下に設置されていた飲料水の自動販売機で、ジュースを買おうとした時だった。「ぼく、コーラ」という男の子の声を聞いたという。しかし、その晩は子どもの宿泊はなかった。

 「私も一度だけ、姿を見たことがあります」と主人。深夜、フロントで残務処理をしていた。すると突き当りの廊下を、白い着物を着た男の子が走り抜けて行ったそうだ。やはり、この日も子どもの宿泊はなかった。

霊道で遊ぶリンちゃん

霊道が通る「大門」

 宿泊客からの目撃情報を集めると、いくつかの事が分かった。

 まず、座敷わらしは、少なくとも3人いること。一人は着物を着た男の子。もう一人は中性的で男女の性別は不明だが、背中に羽が生えているらしい。そして、一番年下で元気いっぱいの女の子「リンちゃん」だ。なぜ名前が分かったのかといえば、宿泊客が女の子に名前を聞いたところ、そう答えたという。

目撃が多い「Y」の間

 では、座敷わらしは、どこに現れるのか? 実は目撃場所には、ある共通点があった。それは「大門」と呼ばれる敷地入口に立つ門と、「Y」の間という客室を結ぶ直線上。「これを霊道と呼ぶらしいですよ。お客様が教えてくれました」と主人。その霊道が通る中庭の中央、梅の木の下あたりで遊ぶリンちゃんの姿が、たびたび目撃されている。

八幡さま

 ところで民話に出てくる金瓶だが、実は今でも大事に祀られていた。大門の前、「八幡さま」の祠の下に埋まっている。いつしか、その話は村内外に広まり、「八幡さま」を拝むと宝くじが当たるといわれ、参拝者が後を絶たないという。実際に奉納された絵馬には、〝宝くじ〟の文字が多く見られた。これも座敷わらしのご利益だろうか?謎学の旅は、つづく。

(フリーライター/小暮 淳)

〈参考文献〉
◦「猿ヶ京温泉語りガイド おとめ婆の祈り」 (NPOにいはるこども文化塾)
◦「猿ヶ京温泉 生寿苑」 (パンフレット・宿泊のしおり)
◦「遠野物語」(講談社学術文庫)◦「みなかみ18湯[上]」(上毛新聞社) ほか

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この記事を書いた人

群馬県内のタウン誌、生活情報誌、フリーペーパー等の編集長を経て、現在はフリーライター。
温泉の魅力に取りつかれ、取材を続けながら群馬県内の温泉地をめぐる。特に一軒宿や小さな温泉地を中心に訪ね、新聞や雑誌にエッセーやコラムを執筆中。群馬の温泉のPRを兼ねて、セミナーや講演活動も行っている。

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