100年続くそば屋が喫茶店に 「きのえね」を地域の憩いの場に 2026年03月06日号

岡田さん(写真左)と4歳年下の妹、島方さん
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瓦屋根に黒い格子の引戸。高崎駅近くで1世紀、そば店として親しまれた「きのえね」が昨年6月に閉じた。だが消えたのではない。3カ月の改装を経て昨年9月、昼は喫茶「きのえね」、夜は宵酒「とらや」として再出発した。店主の岡田恵子さんと妹の島方弘恵さんに話を聞いた。

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カウンター席で和む

 「いらっしゃいませ」。引戸を開けると明るい声が返ってくる。5席のカウンターでは、常連らしい男性がコーヒーをすすり、別の客はクリームあんみつやプリンを前にしている。
 半年ほど前まで、ここは「ざる」「もり」「たぬき」が並ぶそば屋だった。昼どきはサラリーマンが短い時間でかき込み、さっと去っていく。いまは逆だ。ゆったり長居する人が増え、岡田さん、島方さんと話し込む光景もある。座敷はなくなり、テーブルとカウンター中心のつくりに変えた。街なかの“宿り木”という言葉がしっくりくる。
 夜になると照明が落ち、宵酒「とらや」に変わる。昭和歌謡やハワイアンが流れる中、島方さんのつくる小鉢が並び、生ビールや焼酎、ウイスキーとともに夜が深まっていく。
 「とらや」は、島方さんが砂賀町で35年間営んだ居酒屋の名前だ。「きのえね」がそばをやめた同じ年に店を閉め、この場所に合流した。

のれんが変わり再出発
カウンター5席が新登場

二八そばを手放した理由

 「きのえね」の創業は大正13(1924)年、連雀町で店を開いた。現在の旭町へ移ったのは昭和32(1957)年。
 「ひいおじいさんが初代。父が他界したあとは、妹がそば、私がつゆ。姉妹で続けてきました」と岡田さんは振り返る。そば粉8、小麦粉2の二八。細く洗練された麺を、辛めのつゆで手繰る。種物もそろえ、長く愛されてきた。
 転機は体力だった。20lのしょうゆ樽を持ち上げ、3時間以上かけてつゆを引く。そばは毎日打つ。「腰や肩に来るんです」と岡田さんは苦笑する。
 惜しむ声は多かった。「もったいないよ」と言われた。それでも創業100年の節目に、余力があるうちに舵を切ろうと決めた。

受け継がれる食器

そば店時代に使用されたそば猪口は、味噌汁を入れる器としていまも生きる。かつてかき氷を出していた色付きのガラス器ではいま、プリンを提供。

昼と夜、店がつなぐ輪

 新しい柱に選んだのは喫茶だった。「昔は各通りに喫茶店が何件もあった。家賃が上がって続けられなくなりいつしか消えていった。私はここが自宅だから、なんとかなると思った」。岡田さんは大のコーヒー好きでもある。豆を吟味し、キーコーヒーで淹れ方のレクチャーを受けて開店準備に挑んだ。
 料理にも高崎らしさを入れた。高崎産舞茸入りのピザトースト、焼きまんじゅうトースト。人気の豚生姜焼きライスは、中心市街地のミートショップ「キグレ」から厚切りの豚バラ肉を仕入れる。脂が甘く、食べ応えがある。そして昼から頼める名物がもう一つある。「とらや〆のカレー」と「〆のカレー&トースト」である。「豚の肩ロース角切りとタケノコが入って、食感も楽しめるカレーなんです」と島方さん。

とらや〆のカレー&トースト
人気メニュー、豚生姜焼きライス
長坂牧場のジェラート、市川食品の寒天を使ったクリームあんみつ

90歳まで現役目指す

 暖簾は白地にKとT。「きのえね」と「とらや」の頭文字を重ねた軽やかなデザインだ。朝から活動する人のために週末限定でモーニングも始めた。
 「私はここで生まれ育った。地域のために役に立ちたい。憩いの場所を提供したい」と岡田さんは言う。「姉と二人で、元気に楽しく続けたい」と島方さん。いまも「そば屋だと思って入ってくる」客がいる。申し訳なさを抱えつつも、岡田さんは笑う。「ペースダウンしたから、この形なら90歳くらいまで働けるかも」。店はもう、急ぐ人だけの場所ではない。時間をかけて、街の人間関係をほどいて結び直す場になりつつある。

喫茶 きのえね
住所/高崎市旭町37
電話/027・322・5806
営業/月火 11時~15時
   金土日 8時30分~11時/11時~15時
休日/水曜、木曜

宵酒 とらや
営業/18時~22時
休日/水曜、木曜、日曜

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