採れたての梨や梅、プラムをはじめ、トウモロコシ、カリフラワーなど野菜のフレーバーも並ぶ――。ここは、はるなくだもの街道にある人気ジェラート店「アルベロ.」。近くにはパン屋やワイナリーも建つ。この一帯の総称は「フォレストフードカンパニー」。山木農園三代目、山木久利さん、恵美さん夫妻が手がけたものだ。果樹農家の減少が進むなか、農産物の加工や販売、交流の場づくりを通じて地域に新たな人の流れを生み出そうとしている。
ジェラートに込める優しい記憶
山木夫妻は2005年、異業種から実家の農家の後継ぎとなった。「その中でさまざまな問題点が見えてきたんです」と恵美さん。
国道406号沿い、はるなくだもの街道は、かつて200軒以上の果樹農家が軒を連ねる桃や梨の一大産地だった。現在は半数以下に減り、「農業の担い手の高齢化や耕作放棄地の増加が深刻な課題となっています。直売所に足を運ぶ客も高齢化し、農業の収益性は低下傾向にあります」と久利さん。
新しい一歩として2010年、夫妻が立ち上げたのはジェラート店「アルベロ.」だった。
獲れたての果物や野菜、ハーブを使用。素材ごとの風味を生かしながら、常時20種類以上のフレーバーを提供する。北軽井沢の酪農家から仕入れる新鮮な牛乳を使い、滑らかな口当たりに仕上げている。
恵美さんには、ジェラートに対する特別な思いがある。かつて訪問看護師として終末期医療に携わっていた。患者が最期に口にできる食べ物としてアイスクリームに何度も助けられた経験があるという。
「飲み込めなくても口の中で自然に溶けてくれる。命のそばにある食べ物だと感じていました」と話す。

加工と交流で地域に活気
アルベロ.の開業から3年後の2013年には、久利さんが手づくりでログハウス「アルベロ.コラボハウス」を敷地内に建てた。毎月15日には「一五市縁(いちごいちえ)」と名付けた展示販売会を開催。地元のクラフト作家らが参加し、農と手仕事の接点をつくっている。
2016年には、カフェ兼加工所「レガーロレガーロ」を立ち上げた。現在は店舗営業を休止し、加工品製造に特化。形や色などの理由で出荷できない梨を使い、ジャムやカレー、カレーパンなどの商品を生み出している。
「せっかく育てた果実を無駄にしたくない」と話す恵美さん。食品ロス削減やSDGsの視点も意識し、地域資源の有効活用に取り組んでいる。

次のステージはパンとワイン
2023年には、ベーカリーとワイナリーを開業。ベーカリーでは、農園で採れた梨や柚子から自家製酵母を起こし、天然酵母パンを焼き上げる。約20種類が並ぶ中でも、ふわふわの酵母ドーナツは特に人気を集めている。
ワイナリーでは現在、長野や福島の農園から仕入れたブドウで5種類のワインを醸造中。今秋にはいよいよ自社農園に1・4ヘクタールのブドウ畑を整備し、本格的なワインづくりに着手する予定だ。
「くだもの街道に人が訪れるきっかけとなれば――」。夫妻は、食を通じて地域と次世代をつなぐ拠点としての可能性を模索している。
「いまはまだ夢の途中。食のテーマパークづくりは生きている限り、続けていきたいと思います」と久利さん。「次の世代の礎みたいな場所になれば」と恵美さん。夫妻の想いは熱い。


