虹色の湯を訪ねる小さなバス旅 2024年1月19日号

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相間川温泉 高崎市 虹色の湯を訪ねる小さなバス旅

赤褐色ににごり、鉄分と塩分と油分を多く含んだ湯は、独特の温泉臭を放つ。さらに日光に照らされると、湯面が七色に変化することから「虹色の湯」とも呼ばれる奇跡の温泉を訪ねる。

知らない街を訪れた気分

 なぜ、公共交通機関を利用して温泉地へ行くのか? 本音を言えば、湯上りにビールを飲みたいからである。でも理由は、それだけではない。“小さな旅”をしたいから。目的だけではなく、移動の過程を楽しむのが旅である。乗り継ぎの不便さ、見知らぬ人とのふれあい、思わぬアクシデント。それらが“小さな旅”を演出してくれる。

 高崎駅西口、2番バス乗り場。群馬バスの「榛名湖ゆき」または「室田ゆき」に乗車。ここから“小さな旅”は始まる。見知った市街地の風景もバスの車窓から見ると、知らない街を訪れた気分になるから不思議だ。

 旧榛名町を抜け、「室田営業所」に到着。ここで下車し、ぐるりんバスの倉渕線「権田車庫ゆき」に乗り換える。営業所にはトイレと待合室があり、快適に待ち時間を過ごせた。

 バスは国道406号(草津街道)を行く。一変して車窓の景色が変わった。街並みは消え、時おり川面を眺めながら山道を進む。やがて烏川の対岸へ渡ると道幅は狭くなり、深山の装いが色濃くなった。

 「相間川温泉」の一つ手前、「倉渕福祉センター」で下車。ここからは散策をしながら温泉地まで歩くことにした。

不思議な秘話が伝わる渓谷

 「せせらぎの湯」は、平成12(2000)年に旧倉渕村の福祉センターとしてオープンした日帰り入浴施設。合併後の現在でも市内者割引があるため、利用客の9割を高崎市民が占めている。平日の午前中なのに、すでに一番風呂を求める年配者らの姿があった。

 施設に隣接して「せせらぎ公園」が広がる。春は桜の名所、夏は水遊びをする家族づれで賑わう。目を引くのが、斜面を利用して造られた巨大なローラーコースター(すべり台)だ。全長100メートルは県内最大級とか。誰もいなかったので、大人気もなく滑走してしまった。ひと言、楽しい!

 施設駐車場の奥から吊り橋で渓谷を渡る。急勾配を下る階段橋で、なかなかスリルがある。橋の中ほどからは落差10メートルほどの滝も望め、小ぶりながら佳景な渓谷である。

 「泉が渕」という名には、こんな伝説がある。その昔、「おせん」という美しい娘がいた。機を織るのが苦手だったおせんは、嫁ぎ先でそのことを責められ、相間川に身を投げてしまった。今でも夕暮れになると渓谷から、「ギーパタン、ギーパタン」と機を織る音が聞こえるという。

太古から湧いた奇跡の湯

 相間川温泉「ふれあい館」は、平成4(1992)年に旧倉渕村が都市生活者のために遊休農地を整備して貸し出す市民農園「クラインガルテン」としてオープンした。クラインガルテンとはドイツ語で「小さな庭」の意味。敷地内には農園のほか、ログハウスやバーベキュー場、体育館などスポーツやアウトドアを楽しめる施設が併設されている。

 温泉が湧いたのは平成7年のこと。源泉の温度は約62度と高温で、湧出量も毎分約200リットルと豊富。何よりも関係者を驚かせたのは、温泉の色だった。湧出時は無色透明だが、時間の経過とともに黄褐色から赤褐色へと変わった。鉄分を多く含んでいる証拠だ。さらに高濃度の塩分と大量の油分を含んでいた。

 油分は太古の地層から抽出されたもので、石油のような独特な温泉臭が漂う。まれに、この油分が湯面に膜を張り、日光に照らされるとキラキラと七色に輝くことから「奇跡の湯」「虹色の湯」とも呼ばれている。

 残念ながらこの日は、お目にかかれなかったが、濃厚なにごり湯を堪能した。浴室には、こんな貼り紙がある。「カップラーメン お湯を注いで3分  相間川の温泉 入っても7分 これ以上は、のびるだけ」。塩分と鉄分の多い温泉は、実際の温度よりも体感温度が低く感じられるので注意が必要だ。くれぐれも長湯による湯あたりには用心を。

 湯上りは名物の「釜めし定食」をいただきながら、お約束の生ビールを飲み干した。バス停は玄関前。発車の時間まで、心置きなく酔いしれることにした。

(フリーライター/小暮淳)

【参考行程時間】
高崎駅 → (バス約45分) → 室田営業所 →(バス約20分) → 倉渕福祉センター →(徒歩約15分) → 相間川温泉

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この記事を書いた人

群馬県内のタウン誌、生活情報誌、フリーペーパー等の編集長を経て、現在はフリーライター。
温泉の魅力に取りつかれ、取材を続けながら群馬県内の温泉地をめぐる。特に一軒宿や小さな温泉地を中心に訪ね、新聞や雑誌にエッセーやコラムを執筆中。群馬の温泉のPRを兼ねて、セミナーや講演活動も行っている。

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