このところ連日のように報道される特殊詐欺は手口の巧妙化、悪質化と多様化が進み、昨年と比べて被害額が増大。犯行グループの低年齢化だけでなく、触法経験のない若年層による加担も目立つ。このような殺伐とした社会に心を痛めた高崎ロータリークラブ(神宮嘉一会長)が、子どもたちに協力を仰ぎ新たな取り組みに挑んだ。
中高校生がポスター原画制作
暗闇の中、不気味な笑みを浮かべて受話器を握る加害者。電話を前に毅然とした表情で「NO」を訴える高齢者と家族。加害者の心を表すような黒と家族たちの強い意志を感じる赤色と対比させるように用い、真ん中に「みんなで防ぐ特殊詐欺」のキャッチフレーズが躍る。ご覧のように目を引くポスターが、今月から学校や金融機関に貼られ始めた。
企画をしたのは、高崎ロータリークラブ。教育委員会の後援を受け、市内の全中学校と市立の高崎経済大学附属高等学校に夏休みの課題の一つとしてポスターの原画制作を依頼した。中学生から34点、高校生から10点が寄せられ、最優秀賞に輝いた高崎経済大学付属高等学校美術部の猿井留奈さんの作品をポスターにした。審査にあたった神宮嘉一会長は「豊かなアイディアに感心した。恐怖心を与えすぎない工夫、伝わりやすさを重視して選びました」と語る。
現場の声から見えてきた現実
企画はすんなり決まったわけではない。社会から本当に求められているものを探るため、会員が警察や教育現場などにヒアリング。すると思いがけない現実が見えてきた。
「SNS型詐欺が増えたことで、被害者は必ずしも高齢者ばかりではないことがわかりました」と幹事の大河原吉明さん。50~60代以上が多いものの、20代もいる。一方、加害者の多くは10代~20代。被害者も加害者も低年齢化が顕著だ。狙われる側だけにスポットをあてるのではなく、元を絶つ必要性を感じ「若い人を巻き込んだ啓発活動が大切」との考えからたどり着いたのが、中高生に啓発用のポスターの原画を描いてもらうという案だった。
ノート配布で注意喚起
活動はポスター制作だけで終わりではない。元警察署長を招いた市民向けの講演会の開催、「犯罪をしない、させない、許さない」のキャッチコピーを流して行き交う人に視覚的に訴えるデジタルサイネージの設置、原画を表紙にしたノートの制作とさまざまな方法を幾重にも重ねることで、さらなる浸透を狙っている。
ノートは、手にとりやすくバッグに収まるA5サイズ。本体には罫線とドットが引かれ、使いやすさも抜群だ。11月中旬にもてなし広場で開かれた農業まつりに15人の会員が参加。高崎市のマスコットキャラクター、タカポンと一緒にノートを配りながら注意を呼び掛けた。「親子3代での来場者が多く、私たちが狙う層にピタリとマッチした」と笑顔を見せるのは、社会奉仕委員会の細谷可祝委員長。「『ノートを孫にあげたい』という人もいました」と委員の石原理沙さんも声を弾ませる。 世代間交流と家族の結束で詐欺を防いで、住みやすい高崎に。同クラブの願いはさらに広がっていく。
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