合理性とスピードが求められる社会、その陰で苦しむ人も増えている。わたしたちは“心のよりどころ”をどこに見出せばいいのだろうか。
約7割の日本人は「無宗教」と答える一方で、癒しや精神的なつながりを求める声は確実に高まっている。
SBNR――Spiritual But Not Religious(宗教的ではないがスピリチュアル)。
この心は、日本人の精神性の本質であることに着目し、創建850年を迎える山名八幡宮が動き出す。
「宗教」を超えた、“現代人の心を整え保つ”ための取組を山名八幡宮宮司、高井俊一郎さんに話を聞いた。
―Spiritual But Not Religious(宗教的ではないがスピリチュアル)という考え方が広まっているようですが、それはどんなものですか?
いま世界中で、自然とのふれあいや健康的な食生活、ヨガやサウナなどで心身を整えたり、寺社にお詣りしたりと、特定の宗教への帰属とは別に、精神的な豊かさを求め生活する人たちが増えています。近年、当神社でも特別な日以外に参拝する人が増えているのを実感します。
この人たちのことをSBNRと呼ぶそうです。
実はこの根底には、「心と身体は一体、自分は自然と歴史の一部である」という日本人が古より持っている感性・感覚が存在します。

―なぜ今、SBNRなのでしょうか?
AIやDXなどのデジタルシフトには、人間にしかできないことを気付かされます。
気候変動や感染症、天災などには、人智を尽くしてもどうにもならないことがある事に気付かされました。
今なお続く戦争、経済格差や貿易関税などの社会不安からは、自分の利益を最優先することが、結果的に自分たちの社会や経済の安定を破壊することを学びました。
私たちの幸せはどこにあるのか? 企業や組織の在り方は、このままで良いのか?
自然と人間の関係性はどうあるべきなのか? 世界が直面する根源的な問いへのヒントが、日本の精神文化の中に隠されているのだと確信します。
―日本人は無宗教という方が多いようですね
日本人の6割から7割は「無宗教」と答えますが、それは信仰心がないわけではありません。その根底には、自然の力に対する畏敬の念(自然崇拝)や、ご先祖への敬意と生命のつながりを大切にする心(祖先信仰)があり、これらは体系化された宗教ではなく、感謝や祈り・直感や癒しなど感性に基づく日本人の古からの信仰といえます。
「八百万の神」という言葉に象徴されるように、日本では山や海川、風や火など、自然のあらゆるものに神が宿ると考えられてきました。そのため、日本の宗教観は一神教に比べて寛容で、仏教や儒教など他の宗教とも共存してきました。
―では、神道の死生観とは?
神道は日本古来からの信仰で、教典や開祖を持ちません。
山・川・木など、自然そのものに神が宿るとする思想は、現代の人々が求める精神的な豊かさとも親和性が高く、SBNR的な価値観にも通じています。
その死生観は、身体は自然に還る。魂(御霊・みたま)は「幽世(かくりよ)」という、生前の生活に近い世界に留まり、子孫や現世に残した大切な人々を見守る存在となります。
その御霊を祀り、和める場所が「奥津城(墓)」であり「霊璽(位牌)」です。私たちは、御霊に手を合わせることで、先祖や歴史とのつながりを感じることができ、心の内省を促し、感謝の気持ちを育て、精神的な充足を齎(もたら)します。
神道の死生観では、死は終わりではなく、命のつながりの中にあるものと考えられています。亡くなった人は、生きる私たちに安心感や支えを与えてくれる大切な存在なのです。
―山名八幡宮の新たな取り組みとは?
山名八幡宮では安産の祈りや、出産の感謝、子どもの健やかなる成長、母が子を想い、子が母を想う気持ち、人と人のつながりなど、目に見えない価値と向き合ってきました。そして創建より850年の節目に、人生儀礼の最期においても「亡くなる者は残される人を守り、残される人は亡き者に心静かに手を合わせる」。この「祈り」の本質を後世に繋げるために、神葬祭事業の準備を整えています。
これを第一歩として、今後は癒やしの空間や精神的な繋がりの場を提供し、日本人の心を守る事業を行っていきます。
山名八幡宮
高崎市山名町1510−1
https://yamana8.net/