最後に公民館を利用したのはいつだろう? 町内や育成会の役員をしたときだけで何年も足を運んでいないという人も少なくないのではないだろうか。その一方で地域住民が絶えず集い、憩いの場となっている公民館もある。それが南陽台二丁目公民館だ。ミニ図書館をきっかけににぎわいを生み出し、開館から半年で420世帯、733人が利用。さらに高齢者の交流や、コミュニティの復活など新たな兆しが見られている。
おしゃべりOK、にぎわい空間
春の柔らかな日差しが降り注ぐ4月最初の土曜日。数冊の本を胸に抱いた人たちが、南陽台二丁目公民館に続々と集まってきた。公民館内には、毎週金曜~日曜日の午前中、ミニ図書館が開館。30畳ほどの空間に1500冊以上の蔵書が並び、新刊や人気の書籍は、表紙が見えるよう立てたり平置きにしたりと目を引くようディスプレイされている。
利用は南陽台の住民が中心だが、他地域の在住者も可能という寛容さ。室内にはコーヒーの香りが漂い、お菓子も用意されている。同館を「にぎやかなおしゃべり図書館」と称するのは区長の吉田清彦さん。同館の考案者であり、コーヒーをふるまうマスターでもある。来館者は、吉田さんが淹れたコーヒーを飲み、クッキーをつまみながら互いに読んだ本を勧め合ったり、新刊の話題で盛り上がったりと会話に花を咲かせる。この日、初めて利用したという朝原光太郎さんは「読みたい本が見つかって満足」と声を弾ませる。

始まりは500冊の寄付
オープンのきっかけは、昨年4月、吉田さんが区長に就任した直後、区長経験者から蔵書の活用を打診されたことだった。専門書から純文学まで500冊以上の書籍を見て、公民館内に図書館を企画。話を聞きつけた他の住民40人ほどからも書籍の寄付が集まった。市の「活き活き地域づくり推進事業」(現在は終了)を活用して専用の書棚やブックスタンド、新たな書籍などを購入。1500冊が並んだミニ図書館が、9月6日に開館した。
初日の利用者は3人、貸し出し数は6冊だったが、評判は瞬く間に広がり、半年間で733人が利用、950冊が貸し出されている。世帯で見ると970世帯ある南陽台の420世帯が活用。単純計算で43%にのぼる。
ヘビーユーザーの田村桂子さんは「新書が読めるのはうれしい。久しぶりに会う人や、新たに知り合いになった人もいて人の輪が広がりました」と微笑む。実際に同館の利用をきっかけに人のつながりが生まれ、健康麻雀、英会話、体操などの新たなサークルが誕生復活した。
目的はつながりの孵化
実は、ここに吉田さんの狙いがある。年々深刻さを増す高齢化問題は、南陽台でも例外ではない。かつて盛んだった祭りや集いはコロナを機に休眠状態。育成会は休止され、つながりは希薄になりつつある。特に「自宅以外の居場所が見つけづらい高齢者が気掛かりだった」と言う。
徒歩圏内に図書館があれば、散歩がてら気軽に立ち寄れる。おしゃべりも飲食も可能であれば、たとえ本を借りなくても「お茶を飲みに」「おしゃべりだけでも」と誘いやすくなる。つながりを作ることは、孤立からの解放や自尊心の回復につながる。
さらに、子どもたちが利用すれば活字離れの一助となり、若い世代のコミュニティづくりにも貢献。もちろん、知的好奇心がかきたてられることで脳の活性化にもひと役買う。
来月は、館内のプロジェクターを使ったシネマ鑑賞会も予定。「ジブリ作品や寅さんシリーズなど、親しみのある作品を上映するので多くの人に来館してほしい」と吉田さん。
これからの地域に意義深いこの取り組み。「継続して次代へ引き継いでいきたい。モデルケースとして、幸せと安心の輪が他地域にも広がっていけば」と期待を膨らませている。

取材協力
◆南陽台二丁目公民館
高崎市吉井町南陽台2丁目17の7
◎ミニ図書館
開館日時/金曜・土曜・日曜
10時~12時